”マイナス”を持つ人間が、魅力的!(脚本家・山田太一さん講演より)

 まだまだユーチューブを楽しんでます。 約1ヶ月前かな、1970年のテレビ版の”姿三四郎”がついにアップされました。 まだ、第8回(全26回)までなんですが、そのアップされている方は、全編素材をお持ちのようで、この先ほんとに楽しみです。 他に、私の好きな山田太一脚本のドラマでは、”思い出づくり”が全編(14回)分すでにアップ済で、これもうれしい発見でした。

 さて、この山田太一さんが2014年に日本記者クラブで講演されている動画も見ることができ、その内容が、やはりおもしろかったので、ここに貼ろうかと思います。 これは、ドラマなんかでないので、まず削除されることはないと思いますが。 削除と言えば、私が数回前の投稿でアップしたドラマ”兄弟”のダイジェスト版が消えていますね。 これは、ユーチューブからの削除というより、何かユーチューバー側本人の事情によるものだと思います。

 さて、山田さんの講演の内容なんですが、その前に、司会進行の方が、山田さんの作品の代表として、”男たちの旅路”や”ふぞろいの林檎たち” の名を挙げていました。 また、本人が講演の中で、挙げた自身の作品の中では、”3人家族”と”岸辺のアルバム”と”ふぞろいの林檎たち”に関連した話がありました。 もっと作品に直接関連したエピソードを聞きたかったのですが、1時間あまりの講演ではなかなか多くは言えないのでしょう。

 下にその実際の動画をダウンロードしましたので、興味ある方は、じっくり見てください。 

 それで、私なりの講演要旨としては、山田さんは、人々の持っている”マイナス”を描きたい、ということに終始していた、と思います。 彼は、マイナスという言葉を使ってましたが、つまりそれは、”劣等感”や”暗い過去”や、そして、”差別”などを意味しているのでしょう。 その例として、太平洋戦争での多くの惨劇に関連した人々、この講演の3年前に発生した東日本大震災を被った人々、バブル経済で好景気に溺れる人々などを挙げていました。 バブルの話は、儲かりすぎて面白くない例としてですが、戦争や災害の場合は、その中で人々の醜い面がいっぱいあったはずだという思いで、戦争体験者があまりその過去を語りたがらないこと、震災でも、いろいろ美談の裏には、人々の否定的な感情が多くうごめいていただろうとして、そこは、ドキュメンタリーでは表せないので、自身が実際その関係のドラマをこの講演の直前に作ったとありました。

 ついでに、講演の中で言及されたドラマの”マイナス”の面については、”3人家族”では、あの時代、両親が揃ってないと結構社会的に偏見差別を持たれたからであり、”ふぞろいの林檎たち”では、この頃では、就職面接で東大一橋大、早慶大、そして、その他の大学などとに面接の場所が違っていたなどの例をあげておられ、また、”岸辺のアルバム”は、一見その時代の何の不自由もない幸せそうな家族が、実は精神的には崩壊しており、災害ですべてを失い、結果的に、かえって幸福を取り戻す様子を描きたかった、などと述べられていた。 

  最も、人間皆、マイナスを持っているのであるが、ある人間は、それにより気後れしたり、自暴自棄になったり、ある者は、虚勢や見栄を張ったり、あるいは、自分よりもっと弱い他人を虐めたりして、そのマイナス面を隠そうとするのだ、と私は思う。 

 つまり、山田さんにとっては、すべての人間行動は、それらのマイナスをドラマを通して、社会に認知させ、少なくともそのマイナス面を平準化していこうとする活動ではないだろうか!? でも、世の中、マイナス要因は、時代と共に常に新しく繰り出されていく。 それは、人間の活動が多様になっていくのに伴い、仕方がないことかもしれない。 だから、山田さんの題材は、こと尽きないのだと思う。

 結局、今回この動画を見て、脚本家・山田太一さんの信念というものは、私が想像していたものとは、ほぼ、いや全く同じであったので、改めて感激したところです。 この講演の時期からでも、もう7年も経ってますし、自分が還暦過ぎた年齢になってしまいましたけれど、やはりしっかり知ることができて本当に良かったです。 

 ただ、山田さんの講演後に質疑応答の時間があって、4・5人が質問したんですけど、ほとんどドラマとはあまり関係なく、戦後日本の民主主義をどう思うとかの大きな質問とか、他の映画人を批判して山田さんが答えにくかったり、また、あまり山田さんの仕事と関係ない質問が多かったこと等、はなはだ残念でした。 ただ、一番最初の質問者は、時代の推移で、視聴者側に何か変化はあったか?という質問をし、それに、山田さんは、今の視聴者は、あまり”マイナス”なものを見ようとしなくなった、と答えました。 しかり! 

 あ、それから、大事なことを忘れていましたが、山田さんが若い時に読んだ外国の脚本家の本の中で、”ドラマは、王様たちの様子を描くのはなく、隣の肉屋の夫婦がなぜ結婚したのか?というようなものを題材にしなければいけない。”ということが書かれていたことに非常に感銘を受けたと言ってました。 おそらく、山田さんは、西欧において、肉屋というものが、全然差別の対象となる職業などではなく、その反対に、結構立派な仕事として認められているのをご存知の上で、そう言ったのでしょうが、ここ日本で”肉屋(特にちょっと昔の)の話をドラマにするとどうなるのか?、という、その辺のことを暗にほのめかして言っているのかなあー、ともこの私などは邪推してしまいました。 

 でも、かつて私もこのブログで書いたように、そして、今回、この山田さんが言われるように、本当に日本の肉屋の夫婦がどのように結婚に至ったか、というようなドラマをぜひ作っていただきたいものです。 以上。(※おおよその内容を書いたままで、山田さんが語った正確な言葉・文章ではないと思いますが、ご了承を。)

 


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