ドラマ”兄弟”(木下恵介アワー)に感激!

 今回もまたユーチューブで見た昔のドラマの感想です。 それで、その後も、木下恵介アワーなどを中心にいろいろアップされている動画を見させてもらっていました。

 まず、木下恵介アワーの主なものを年代順にまた並べておきます。(放送回数は、何も書いていないのは26回。 なお、今回は敬称略。)

・おやじ太鼓・1(1968.1開始、脚本:木下恵介・山田太一)全65回(パート1・2併せて)

・3人家族(68.10ー69.4、脚:山田太一)

・兄 弟(69.10ー70.4、脚:山田太一)

・あしたからの恋(70.4-11、脚:楠田芳子(木下恵介の妹))32回

・二人の世界(70.12ー71.5、脚:山田太一)

・太陽の涙(71.12-72.5、脚:木下恵介)

・幸福相談(72.6ー9、脚:成田孝雄)17回

・思い橋(73.4-9、脚:高橋玄洋(ヒット作多)

 このうち、前回の投稿以降に見たものは、制作年順に言うと、”兄弟”、”あしたからの恋”、”太陽の涙”、”幸福相談”、そして、”思い橋”です。 木下恵介アワーで、私が子供の頃に見た記憶があり、多少でも思い出せるのは、”おやじ太鼓”と前回書いた竹脇無我・栗原小巻カップルの”3人家族”と”二人の世界”だけでした。 (白黒時代の”記念樹”を除いて) 

 ですから、今回アップされていた動画のドラマは、すべて完全に初めて見るという感覚でしたので、最初、”面白いのかな?”などという心配も多少ありましたが、いざ見だすと、どれも結構面白く、すべてのドラマを見れる範囲で皆一気に見てしまった、という感じです。 

 ただ、この木下恵介アワーのドラマ群は、山田太一など数人の脚本家によって作られていますが、ストーリーは、だいたい似通っていて、まず年長のカップル(と言っても25歳前後が主で年がいってても30歳(男性)くらいまで)と大学生などの年若いカップルの2組の恋愛の推移を綴っている、そういう内容です。 とまあ、今の時代から言うと、皆とても若いカップルですし、結婚にあせる年代では全然ないんですが?

 年長カップルの配役には、当時の美男美女俳優が充てがわれ、若いカップルの配役は、男性役は、あおい輝彦か小倉一郎で、その相手役は、ほとんど沢田雅美ということになっています。

 さて、どれも楽しく見させてもらいましたが、それでも、一応より感動の少なかったものから順に、その感想を書くことにします。

 まずは、”幸福相談”です。 このドラマは、”年長カップル”には、倍賞千恵子と山口崇でした。 今現在、全17回のうち、13回までしかアップされていないので、最後の展開はわかりませんが、おそらくここでも二人は結ばれることでしょう。 山口崇の家は、台所のユニット製品を製造する自営業ですが、山口の下に大人の弟が4人もいて(そのうち一人は結婚までしてその妻も同居)、母親と一緒に同居している大所帯の家族です(父は死んでいない)。 だから、家の中が男で溢れかえって、画面がちょっと窮屈な印象がありました(放映当時は、そう感じない人も多かったかもですが?)。 山口は、ここの長男で30歳を越えた設定になってました。ここの木下恵介アワーの中で、多分、最年長?

 倍賞千恵子は、会社員ですが、夜は、占い師をやっている変な役柄。 これが、会社では勝ち気でキリッとしている印象を出しているのに、占いで何でも判断するという矛盾した女性像をもたせている、と私には思えました。 やはりその点が、当時でもあまり評価されなかった理由かどうかわかりませんが、とにかく、このドラマは、ここに上げたシリーズの中でも、最短の17回で終了しているというこであり、いわゆる視聴率的にも良くなかったのでしょう。 もう一つだけ、ボヤキを入れれば、この昼間、倍賞が働く会社なんですが、毎回、倍賞のところにはたくさんの私用の電話や面会者が来ていて、上司に叱られないのかなー、と思いました。

 その次は、”太陽の涙”です。 これは、最初の方はアップ動画無しで、10回以降最終回までという動画アップ状況でした。 年長の男性役は、加藤剛、女性は、山本陽子。 若いカップルは、小倉一郎と沢田雅美です。 これは、元々、加藤と山本は見合いするはずであったが、山本が写真を見るのも拒んで破談になった。 でも、その二人が、現実に出会って、それ以降、山本は加藤にぞっこん状態になる。 この捻れた関係を解き、二人をちゃんと会わせるため、周りがヤキモキするといったドラマです。

 毎回、番組冒頭で、木下恵介の信条と思われる当時の日本の実情を批判する朗読が流れる。 それ自体は、良いのだが、ドラマの内容とどれほど関係があるのか、理解に苦しんだ。 もちろん、ドラマ内でも公害問題や戦争の悲惨さを役者のセリフの中で、少し言わせているが、やはり、ドラマの全体的な内容とはかけ離れすぎている感があったように思う。 ”太陽の涙”という大きなタイトル自体の意味も、最後の最後にわかるのだが、どうだろうか? 適したものだったろうか?

 その次は、”思い橋”。 これは、ほぼ全編動画アップされていました。 年長男性は、藤岡弘、女性は上村香子。 若手の方は2組あったが、上村の妹役に松坂慶子がハツラツと演じていた。 上村は、母が営む老舗旅館で働く、非常に淑やかな女性として描かれていた。 なかなかその意志が読みとれない設定にしてあり、最後の方まで恋が成就するかわからない感じであった。 ただし、このドラマの主役は、上村や松坂の義理の母親役でその旅館の女将の淡島千景である。

 それから、”あしたからの恋”(32回のうち、半分の最初の16回までアップ)は、林隆三と磯村みどり、大出俊と尾崎奈々の2組の大人のカップルで、若手は、あおい輝彦と岡崎友紀と思われるが、最後まで見ていないので、この関係は、どうなったのか不明。 林の恋人役の磯村という女優は、私は知らなかったが、和風美人で、このドラマでは、幼馴染の林と良い友達であったが、やがて二人の関係は恋に変わっていくようだ。 ドラマを見るものとしては、その辺の変化が楽しみなのだが、後半部分が動画アップされていないため、その様子はわからない。 アップロードを期待したいものです。

 一方、このドラマのダイジェスト版の中には、尾崎奈々と大出俊の関係だけをクローズアップしたものがあり、それによると、この二人は無事に結ばれるのであるが、前半部分では、医者である大出俊の尾崎に対する口調が、どうも荒く喧嘩っぽいので、怪訝な感じがした。 また、このドラマも、一応主役は、林や尾崎・岡崎の両親である進藤英太郎と山岡久乃である。 山岡は、ここでは、明るい近代的な母親像を演じていて、いい感じでありました。

 さて、最後に一番感動した”兄弟”について書きます。 このドラマでは、若いカップルは、あおい輝彦と沢田雅美のいつもの組み合わせ。 この若いカップルの恋愛事情は、他のドラマよりむしろ面白くないというのが、本音です。 なぜ面白くなかったのかと言うと、沢田の友人も、あおいを好きになってしまい、三角関係のもつれをダラダラ長く続けていたからです。 

 ただ、そこで一つ関心のあったのは、この沢田は、山梨の田舎から来てデパートの大食堂でウェイトレスをやっていましたが、そこに大学生であるあおいが、ある偶然から彼女を好きになる。 でも、沢田は、当初長い間、二人のこの”身分差”のせいで、あおいの求愛を避け続けるというシーンが続きます。 

 このドラマは、1969年に始まりますが、その時代の世相・雰囲気は、そんなもんだったのでしょうか? このドラマだけでは、ありませんが、この木下恵介アワーの他のドラマでも、結婚予定相手の素性を興信所などで調べてもらう、などの表現がいくつかありました。 やはり、現実は、そうだったのでしょうかね? 関東でも多くいた部落出身者の場合などは、どうだったんだろうか、問題外なのか、などと、やはり、この私は、そんなことを想像したりしてしまいましたがーーー。

 ドラマに戻って、ここでのメインの年長のカップルは、津坂匡章(のちの秋野太作)と秋山ゆり(他には、”おくさまは18歳”などに出演)です。 秋山ゆりは、このドラマの撮影時は、若干20か21歳だと思いますが、大人の雰囲気がいっぱいでした。 今回、この二人の恋の経緯が、とても面白く、かつ、二人の働く大企業の様子が、私のかつての職場と同じようなものであったので、より一層親近感をもって見られたということもあります。

 津坂は、あおいの兄であり、彼らは、中流のサラリーマン家庭で育つ。 秋山は、大工の娘であるが、大学(短大?)へ行き津坂と同じ会社の秘書課に勤務している。 もちろん、美人である。 秋山と沢田の2女性は、今回は家族とか友人とか全く関係ない。 

 秋山は、社長に近い秘書課の所属で、会社の全若手男性社員から高嶺の花的に注目をあびる美人社員として描かれている。 しかし、父は、大工の棟梁であり、その父の仕事は立派であると思っていても、他人に父の仕事を聞かれれば、”建築関係”と言ってしまうように、どこかにそのへんの劣等意識があるように描かれています。

(※それと、この秋山の話ぶりは、会社では、清楚で毅然とした女子社員として、当時のいわゆる山の手の標準語の楚々とした口調が印象的ですし、また、彼女が家に帰って、大工の父親と結構砕けた口調になって話していくことに、なかなか興味がありました。 今60歳を越えた私が言うのもナンですが、子供の頃の私は、自分だけが、家と外との話し方の区別をつけているみたいな気がして、ある種のやはり劣等感みたいなものがありました。 自分の家で話す言葉使いは、とても上品と言えるようなものではない、と。 しかし、そのうち、人間は誰しもそういうところがあるのだと思い知り、納得したのでありますが、10歳頃の私が、こういうドラマを見て、よく理解できていれば、そのような悩みはそんなに長く続かなかったかも、と面白く感じた次第です。)

 なお、ここにある秘書課というのは、会社・組織が大きくなれば、単に社長秘書が一人いるというのではなく、数人の秘書が課員として存在し、社長や重役のために秘書事務を行う、そんな部署のことです。 もちろん、秘書課長もいます。 

 一方、津坂は、一流大学を出て、この大会社に就職できたわけですが、特にエリートというわけではなく、総務課で単調な仕事を毎日真面目にこなしている青年という設定。 ただ、少し前から秘書課にいる秋山に好意を抱いていたのだが、ある日、会社の昼休みでかなり遠くにある小さな食堂で昼食を取っていたところ、そこに、偶然、秋山が現れたのである。 隣同士に座った二人は、初対面だが楽しい会話をかわすことができた。 

(※この辺は、私もかつて大きな組織で働き、そこには、やはり秘書課という課が存在したし、そして、私も、昼休みは自分の同僚などと一緒に食べることよりは、一人で考え事をしたい思いで、庁舎周辺の小さな食堂へ行くことが多くありました。 もちろん、私の場合は、秘書課に憧れさんがいたわけではありませんが、組織が大きかったので他の部署などには、やはり良いなあーと思う美しい女性は、いくらでもいました。)

 さて、津坂と秋山は、その小さな洋食の食堂でもう1・2回会った後、事件が起きます。 それは、秋山がある日の朝、その昼にあの食堂に行きますと津坂に声をかけてきたのである。 津坂は喜んで、その食堂で彼女を待っていたのだが、ついに、その昼、彼女は来なかった。 その日の午後、それに腹を立てた津坂は、秋山に怒りの電話をかけてしまった。 次の日の朝、後悔した津坂は、秘書課までおしかけ、秋山に会おうとした。 だが、秋山は、社長と打ち合わせ中であり、無視された。 その社長と連れ添って歩く秋山の後ろ姿を見ながら、津坂には、彼女がとても遠い存在になってしまった印象を受ける。

(※この後ろ姿のシーンは、下に貼った短縮版の動画では省略されています、念の為。 このあたりの津坂の失意を見せる情景は、誠に胸がキューンとして興奮しました。)

 その失意の津坂は、その昼も同じ食堂へ行くのだが、もう彼女は、ここには来ないかもしれないと、大いに後悔の念を繰り返す。 だが、ふと後ろをみると、彼女が食堂に入ってきてくれたのである。 ここで津坂は、前日の無礼な電話のことと、今朝の秘書課への非常識な訪問のことを謝った。 秋山は、それを許しながら、自分も前日の昼にこの食堂に来れなかったことをわびた。 そのあと、二人の会話は弾み、そして、初めてのデートの約束までするのである。

(※このあたりが、私にとって最高に面白い箇所でした。 この時の食堂での会話の後半部分は、二人の手の動きだけを映しており、そこに、心の動揺の様子を表していました。 そのシーンでの秋山ゆりの指が、とても美しかったのが印象的でした。 下に短縮版の動画をインポートしましたが、ここでは35分くらいに、そのシーンが始まります。 この動画は短縮版であるので、恐らく消去されないと思うと、うれしい限りです。)


抜粋・秋山ゆり・秋野太作・兄弟短縮版より・木下恵介アワー

 

 まあ、その後は、二人の関係は、徐々に深まったいくのですが、それは、あくまで心情であって、性的関係はやはりこのドラマでも一切表現されません。 この時代でも、婚約をするぐらいのカップルなら、多くが性的な関係を持ったと思われるのですが、この木下恵介アワーでは、そんなカップルは全く出てこない。 同じ山田太一の脚本でも、それから、15年ほど後に書かれた”ぶぞろいの林檎たち”では、そこに出てくる大学生たちの性に関わる表現や葛藤が詳細に描かれるのとは、かなり異なります。 やはり、時代が大きく変わったのか?

 ただ、この津坂と秋山の二人が、精神的には徐々により親密になっていくにもかかわらず、こんどは、新たにそれぞれの悩みが生じてくる。 それは、たとえば、愛といっても、この愛は、長い人生の間、ずっと続いていくものなのか、とか、あるいは、この結婚で、多少幸福になるかもしれないが、私の人生は、もうこれでほぼ決まってしまうのかーーー、などなどの心情を、山田太一は役者に言わせている。 この辺は、私も若い頃、同じようなことをいろいろ考えていたので、ウナッたところです。  

 それと、このドラマでは、津坂の父親が会社での若手社員との対立により挫折し左遷され、そこから自らのこれまでの主義主張に対する反省の念を含めた立ち直りの場面があったり、母親が自身の主婦としての生きがいを問い直す(女性の自立に関わるような)シーンもあり、家族というものの存在を奥深く探っている感じがして、さすが山田太一だ、と思いました。

(※が同時に、このドラマが出て50年経つ今の時代の我々の人生観・家族観は、どこまで進歩したのだろうかという疑念も感じた次第です。)

 それと、もうひとつ、秋山の父には、大工の弟子がいました。 この弟子が、秋山を好きになり、自分とは釣り合わないお嬢さんと知りつつ、その恋愛感情を彼女に伝え、また、津坂に挑戦状を叩きつけるかのように、ずうずうしい面談を申し出ます。 このあたりのいわゆる労働者の立場の言い分も、山田は、この弟子のセリフとして吐き出させているように思えます。 

 津坂と秋山の恋の進展を願う多くの視聴者には、この弟子の言動は、許されるものではないかもしれない。 しかし、社会のいわゆる見えない身分差のようなものに、山田太一は、このドラマを通じ、いろんな形で抗議していたのかもしれません。 

 ま、とにかく、このドラマの最後の5・6回は、短縮版での視聴になりますが(ここに貼ったダイジェスト版と量的にはほぼ同じ)、なんとかこの年長カップルの恋愛が成就するのを見ることができます。 もちろん、完全版をみたいものですが。

 とりあえず、今回見た数々のドラマの動画をアップされた方々に、いっぱい感謝して、今日のところは、このへんで終えることにします。