人の死後の評価とスコットランドのこと。

 
 こちらアイルランドは、8月末からまとまった雨が降らない、言わば異常気象になってます。 日本では、いっぱい雨が振りましたね。 こちらでは、雨もないし、9月には珍しい晴天が続いております。 温暖化の影響だとすれば、冬場は、去年同様、暖かめであっても、風雨のより強い天気になりそうです。
 
 さて、極く最近の私の頭に浮かぶことは、あさってになった住民投票や今度のNHKの朝ドラのマッサンに関連して、スコットランドのことをいろいろ思い巡らせています。 それと、前回の記事の関連で、人の死についても、いろいろモヤっと考えています、
 
 それで、その両方に関係するようなこと書きます。 日本の皆さんのほぼ全員が知らない名前ですが、先週こちらアイルランドの政界では、非常に大きい存在であった人物が亡くなりました。 イアン・ペイズリー(Ian Paisley) という人です。 この人は、北アイルランドの政治家で、長年、プロテスタント系の代表者、あるいはそれを超えたシンボル的存在でしたので、北アイルランドのカトリック系の住民には、鬼のように思われていた人物です。
 
 南のアイルランド共和国でも、政治家にとっては、ホントの扱いにくい人物でした。 しかし、ここ20年来の、この地区の和平交渉が進展していくなかで、正確な年数は忘れましたが、10年ほどまえに、北アイルランドで、今のスコットランドにあるような地方議会が設立され、首相や副首相などの行政機関も設置されました。 そして、その第1回の行政組織のトップに、このイアン・ペイズリーがなったのです。 (英語では、総理大臣(首相)に当たる言い方は、プライム・ミニスターですが、北アイルランドでは、それとの混同を避けるために、このトップの呼び名を、ファースト・ミニスターと言ってます。)
 
 当時、北アイルランドの各政党の勢力争いで、僅かに第1党であったのが、このペイズリーの党であったので、彼が、このファースト・ミニスターになったのです。 そして、副首相に当たる人物には、カトリック系の政党のNo.2であった人がなりました。 この政党は、あのテロ集団のIRA(アイ・アール・エイ)の政治的な機関だと長年言われてきました。 この政党のNO.1の人物は、今は、こちら南のアイルランド共和国の国会議員になってます。
 
 まあ、この詳しい経過を紹介しても、日本の皆さんには、あまりピンとこないものなので、これ以上言いませんが、私の言いたいことは、その以前の和平交渉が進んでいく中でも、北アイルランドでは、IRAやプロテスタント側のテロ集団による殺戮(さつりく)が繰り返されていたのです。 上に書いたように、カトリック側のIRAの行動には、この政党幹部の関与がほぼ確実に関与しているという認識は、北・南のアイルランド人のほとんど全てが、共有しています。
 
 一方、このプロテスタント側のイアン・ペイズリーが、どのくらい彼らサイドのテロ集団に関与していたのかは、私はよく知りません。 しかし、和平交渉の早期の段階までの彼の演説などを聞いたことのある人ならば、もうその戦闘的と言おうか、タカ派的と言おうか、そういう過激なイメージを彼に抱くのは必然的なものになると思います。 彼らの英語は、前に言いましたが、北アイルランドの方言で、正直、私には、あまり耳障りの良いものではないのに加え、このペイズリーの喋り方は、ナンカ、ブルドッグみたいで、この私には、非常に分かりにくい英語でした。 一般の南のアイルランド人にとっても、あまりいい感じの英語ではないようでした。(もちろん、彼らには、その発言内容が、そうさせることが主であったでしょうが、たぶん)
 
 で、です。 でも、しかし、上記の和平交渉が進展し、議会などが設立される頃になると、このペイスリーを始めとするプロテスタント側のの政党代表たちとカトリック側の代表者たちの満面の笑みの写真が報道されました。 日本で言う、内閣の発足時のあの階段でのワンショットみたいなやつで。
 
 この時、私は、なんかしっくりしませんでしたね。 和平がある程度実現したので、それを讃えるために、代表者たちは、大げさにも喜びを見せたほうがいいのか、いや、彼らの名において、何百人もの北アイルランド(南やイギリスでも)の人間が死んでいったのに、その死を悼んで、もっと厳粛に慎ましく、和平の席の様子を示すべきではないのか?などなど。 恐らく、アイルランド人の中にも、私と同じような疑問を持った人は多くいたはずです。 この和平の後でも、分裂したテロ集団の活動もあったりしましたしーーー。
 
 とにかく、その10年ほど前から、今日まで、このペイズリーとカトリック側のリーダーたちは、私にはナンカ旧友同志でもあるかのように、仲良くしているところが、マスコミなどに紹介されていました。 また、去年でしたか、カトリックのリーダーが、初めてエリザベス女王の招待を受け、儀礼どおりの握手をしたと大きなニュースにもなってました。
 
 そして、先週のこのイアン・ペイズリーの訃報について、カトリック側のNO.1と2の二人の凄く肯定的な追悼の辞が紹介されていました。 それで、ホントにいいのでしょうか? 彼らのせいで、死んでいった者の遺族にとっては、どのように聞こえるのでしょうか?
 
 誰かが死ぬと、世界中のどこでも、その人が、とたんにヒーローになったような記述に変わりますね!? 日本だけでなく、世界中に、死者には鞭打たない、という価値観があるのでしょうか?
 
 私は、基本的には、生きている人をあまり過小評価もしないけれど、あまり過大評価もしません。 スポーツ選手が偉大な記録を打ち立てとしても、そのスポーツのことであって、その人の全人格が何かオーラがあって凄いなどとは思いません。 と、同時に、ホームレスの人も、今はそのような境遇になっているけれど、中身はどんな人間であるかわからないし、この先どうなるかも、またわからない、と考えるような人間です。 
 
 この前、例のSTAP細胞の件で自殺者が出ましたね。 あの時の日本のマスコミの表現の変化には、あきれました。(私の知る範囲は、限られていますが。) そんなに人への評価がブレて、どうするのかと思います。 ただ、彼の場合は、恐らく、京大卒同志であったiPS細胞の山中氏がその成功やノーベル賞受賞といったことでの大いなる焦りもあり、自分も一発逆転の大きな成果を出そうとしたことで、今回のケアレス・ミス(と言ってもいいと思う)に繋がったと思いますが、それは、彼のいままでの業績がそんなにりっぱであるならば、今回の事件のことを彼の口からすべて明らかにしてもらいたかったです。 
 
 少なくとも、あの論文の不備や不正などをどの程度知っていたのか、知らなかったのか、また、不正が取り沙汰されてからの自身の態度などをはっきり公開すべきだったのではないでしょうか。
 
 まあ、このようなことを、あの自殺があった時点で、似たようなことを言っている人もいたので、私は何もこのブログでは書きませんでしたけれど、今回こういう政治家の死を見聞きし、改めて死後の評価をどうするのか、という疑問が湧いてきたのです。
 
 もちろん、死のあと、葬儀などがあり、ある程度月日が経つと、その人の評価もまたいろいろ出てくるのは、世の常みたいなので、言わば、死直後の短い間は、遺族への慰めみたいな時間ということで、世界中で故人をヒーロー化する傾向にあるのでしょうか?
 
 最後に、この北アイルランドの政治家たちですが、今度のスコットランドの独立の動きを、非常に神経質に見ています。 日本では、スペインやベルギーへの飛び火や、ロシアのクリミア問題への影響も言われてますが、こちらの北アイルランドでも、穏やかではないのですよ。 以前にも書きましたが、北アイルランドのプロテスタント系の住民の多くは、もともとはスコットランドから来たもので、彼らの宗教は、プロテスタント系でも長老教会派と呼ばれているもので、イングランドの国教会とは違います。(もちろん、イングランド系の住民もいますが。)
 
 その父祖の地であるスコットランド人が、イギリスから独立しようとしています。 そして、自分たちは、ここ北アイルランドで、イギリスとの繋がりを唯一無比に信じて、これまでカトリック側と対立してきました。 今は、和平により、テロ行為は、ほとんどなくなりましたが、メンタルな面では、プロテスタント系住民のこの気持は、同じです。 ですから、このスコットランドの結果が、もし、独立のほうに行けば、彼らの精神的なダメージは、かなりのものと予想します。
 
 私個人的には、今、スコットランドの独立について、どうなのかよくわかりません。 あさっての木曜日までに、もう少し考えてみます。 ただ、打算的な面では、独立派の勝利直後は、イギリス・ポンドが大きく下落するでしょうから、その瞬間に、Amazon UKでオンライン・ショッピングをよくする私たちにとっては、絶好の買い物チャンスになる、とミミッチイことを考えています。 
 
 では、木曜日の住民投票の日まで、さいなら!