田原総一朗の心がわりと歴史認識の矛盾

 こちら見ることができるJSTVというテレビ局は、NHkの番組を主体にしており、あと民放の人気のあったドラマを数ヶ月遅れで放送するという形になっています。
 
 だから、こちらでは、NHKに出なくて民放だけに出る報道関係者や評論家の言動が、ほとんど聞こえてこないのが残念です。 そういう中で、前回、加藤周一のことを書きましたが、あれは、どちらかと言えば、最期に近づいた人間の業と言おうか、まあ、そういうものの一つであろうとは、理解できます。
 
 しかし、以前、ブラック問題やその他のタブーの問題を多く取り上げたあの「朝まで生テレビ」の司会進行をしていた田原総一朗の言動の変貌ぶりは、私には、あきれるものがあります。 知らない人がいるかもしれませんので、簡単に書きますと、彼によると、あの太平洋戦争やその前のアジア侵略戦争は、実は、侵略でもなんでもなく、むしろアジア諸国のためだったという論旨です。
 
 それまでの外部から想像できる彼の思想からは、180度の真反対に聞こえる言動です。 本人によれば、いままで怖くて言い出せなかった、ということです、70歳過ぎるまで。 私も、彼の本を読んだわけではなく、詳細を知らないで批評するのはよくないと思いますが、ネットでかなり彼の著作に対する批判もあるので、私が、ここで多く書く必要もないでしょう。
 
 ただ、ある程度、歴史を長い目で見ると、侵略・植民地化というものも、時代経過で、その見方が、大きく変わってくるということもよくあります。 有史以来、人間は、移動し、民族を形成し、また移動し、多民族を抑圧あるいは消滅させてきた、この繰り返しですね。 
 
 この民族抑圧の歴史に対抗する肯定的な行為の一つとして、日露戦争などは、多くの非白人・列強系の民族を大いに勇気づけたものとして知られていますね。 ポーランドやトルコからチベット、さらに中国や朝鮮の人民まで、世界中で。
 
 それから、このアイルランドですが、イギリスから1000年以上に渡って、所謂、侵略や略奪を繰り返し行使されてきました。 イギリスからのそのことに対する公式の謝罪なんて聞いたことがありません、少なくとも、一般のアイルランド人は、知りません。 今も、北アイルランドは、イギリス領です。
 
 しかし、これだけ、長い歴史であると、もう全ての生活文化においても経済活動にしても、イギリスの文化・経済抜きには、アイルランドは、生き残れません。 今更、イギリスが、侵略者であるから出て行けとか、イギリス系の文化を排除できることなどは、全く考えられない。 英語もそのひとつです。 もちろん、私は、日本が、朝鮮半島をもっと長く侵略し続けていればよかったなど、と到底考えておりません。 ただ、ユーラシア(この言葉も好きではありません。 ヨーロッパが主みたいな。)大陸の反対側で起こった歴史と現実を書いているのです。
 
 もちろん、アイルランドにも、いまだにイギリスを毛嫌いする人達も、少数派ながらいますよ。 英語を喋り、イギリス紅茶を飲みながら。 でも、最近は、北アイルランド問題も沈静化してきたせいもあってか、アイルランドの大多数の人のイギリスに対する嫌悪感は、かなり弱くなった、いや、むしろ友好ムードが強くなったと言っていいでしょう。 
 
 去年、イギリスのエリザベス女王が、アイルランドに来ました。 平和時としては、初めての英国元首のアイルランド訪問が実現しました。 その直前は、さすがにアイルランドでも緊張した報道が続きましたが、女王が来てみると、大いに歓迎ムードでした。 今、アイルランド人は、イギリス・プレミアリーグに熱中してます。
 
 このように長い歴史を経て、物事が進むと、かつての行為を簡単に判断することの難しさがあることは、よくわかると思います。 ただ、それもこれも、所詮、われわれは、今の時点で、今いる人間の立場からしか意見が言えないのも、また、事実です。 田原総一朗は、やはり、朝鮮半島の人々に聞くべきでしょう。 あれは、アジア救済の聖戦だったのか、単に、日本の侵略行為であったのか、を。 
 
 今後、中国の再巨大化という過程を経て、どういう風に、周辺諸国の歴史認識が変遷していくのか、非常にコワイところもあるし、興味深いところでもあります。